聖書は、「神の国と悪魔の国の葛藤」というテーマを軸に読み解くことができる。創造主である神は、被造世界に対して最善の計画を持っておられる。それを阻止しようとして暗躍するのが悪魔である。この世になぜ悪が存在するのか。その答えは、神と悪魔の葛藤の中にある。「神の国と悪魔の国の葛藤」というテーマは、聖書の歴史哲学の中心である。

1.「神の国と悪魔の国の葛藤」というテーマに沿って聖書を読み解いている。(1)この葛藤は、創世記3章以来続いているものである。(2)この葛藤は、黙示録20~21章で終わる。
2.パートⅠ.葛藤の舞台設定(1~3章)
3.パートⅡ.旧約時代(4~17章)
4章 カインとアベル5章 大洪水6章 バベルの塔    7章 アブラハム契約8章 出エジプト9章 律法と幕屋10章 カナン定住と士師記の時代11章 士師記の時代から王制へ12章 ダビデ13章 ソロモン    14章 北王国の崩壊15章 南王国の崩壊    16章 バビロン捕囚17章 ペルシア時代 *神の国と悪魔の国の葛藤は、継続している。

2.パートⅠ.葛藤の舞台設定(1~3章)
1章 神の国の始まり
2章 悪魔の国の始まり
3章 原福音
(1)サタンは、悪魔の国を造るという目的をある程度達成したかに見える。①彼は、天的領域と地上的領域に、自らが支配する国を造った。②堕落した人間は、サタンの目的に従って利用されるだけの存在となった。
(2)神は、直ちにサタンを滅ぼすこともできたが、そうはしなかった。①神は、天地創造の前から人間を救う計画を立てておられた。②神は、堕落した人間を愛し、彼らを救おうとされた。    (3)この章では、神が人間に与えた福音の原型について学ぶ。①これを原福音と呼ぶ。    (1)被造世界の回復
(2)それ以外のものの回復
(3)原福音

 

パートⅠ.葛藤の舞台設定

1章 神の国の始まり

イントロダクション

  1.聖書の概略を読み解くためには、いくつの方法がある。
1)諸契約を基に、神の計画の歴史的進展を読み解く方法①聖書を字義通りに読めば、8つの聖書的契約が存在することが分かる。
2)神の経綸の移行に注目しながら、聖書を読み解く方法①神の経綸は、一般的にディスペンセーションと呼ばれている。②聖書には、明確に区分可能な7つのディスペンセーションがある。
3)神の国と悪魔の国の葛藤というテーマを軸に、聖書を理解する方法①本シリーズは、(3)の方法で聖書の概略を読み解こうとするものである。

  2.本シリーズの目次

    パートⅠ.葛藤の舞台設定

    パートⅡ.旧約時代

    パートⅢ.中間時代

    パートⅣ.新約時代

    パートⅤ.公認教会の時代

    パートⅥ.ルネサンスと宗教改革の時代

    パートⅦ.近代における背教の時代

    パートⅧ.自由主義神学の時代

    パートⅨ.グローバリズムの時代

    パートⅩ.神の国の完成

神の国の始まりについて学ぶ

Ⅰ.個人的証し
神谷式なら(問題意識)

(1)今の自分の存在は、進化の積み重ねによって出来たと思っていた。①生命の存在原因について、進化論しか教えられていなかった。②人間は、偶然の積み重ねの産物であると信じて疑うことがなかった。

(2)人生の根源的な問い①「人はどこから来て、どこへ行こうとしているのか」②「人はなぜ生きているのか」

神谷論
宗教と哲学が人間には必要不可欠な精神の維持機能

聖書への疑問

①「神が愛なら、なぜこの世に悪が存在するのか」

⓶「聖書が示す人生のゴールとはなんなのか」

中川論
キリスト教とは、世界観であり歴史観である。  1.聖書には、明確な歴史哲学が啓示されている。    (1)歴史哲学とは、歴史を読み解く原則のことである。①その原則を用いれば、さまざまな歴史上の出来事の説明が可能となる。
2)いつ、なぜ、どのようにして起こったのかを、説明できるようになる。

①世界の存在②死の存在③悪の存在④死刑制度の存在⑤多言語の存在⑥諸民族の存在⑦イスラエル人の存在⑧反ユダヤ主義の存在⑨キリスト教会の存在⑩ローマ・カトリック教会の存在⑪イスラム教の存在⑫プロテスタント教会の存在⑬ホロコーストの悲劇⑭近代イスラエル国家の復興

2.聖書の歴史哲学の主要テーマのひとつが、「神の国と悪魔の国の葛藤」である
1)「神の国」とは、光の国である。「神の王国」(Kingdom of God)である。
2)「悪魔の国」とは、闇の国である。「悪魔の王国」(Kingdom of the Devil)である。
3)聖書によれば、歴史とは、この2つの王国の葛藤の記録でもある。

Ⅲ.無から有を創造する神
1.聖書の歴史哲学の土台
1)神はなぜ、天地を創造し、人間を創造されたのか。①神は、永遠の昔から、三位一体の神として(父、子、聖霊という3つの位格において)存在しておられる。②神は、完全に自己充足し、自己完結したお方である。
3)天地創造の前には、神以外のいかなるものも存在しなかった。①これは、神を理解する際に極めて重要な情報である。①神は、「世々の王」(永遠の王)(the King eternal)である。②神は、朽ちることなく、目に見えない唯一の神である。*神は、不変である(時間に支配されていない)。*神は、物質界を超越した霊的存在である。
2)神は、永遠の昔に、御自身が王として統治する「神の国」を造ろうとされた。
3)「王国」が存在するためには、次の3つの要素がなければならない。①王の存在②王国を統治するための権威③臣民の存在
3.天地創造の目的は、神の国の臣民を造り出すことにあった。
1)最初に創造されたのが、天使たちである。
2)天使は霊的存在であり、知性を有する①コミュニケーション能力が、与えられている。②天に住むように創造されたが、地に下ることも許された。③天使たちの間には、権威や能力に関する序列が存在する。
3)天使の数に関しての明確な啓示はないが、ヒントになる聖句はある。①ダニ7:10Dan 7:10
火の流れがこの方の前から出ていた。/幾千もの者がこの方に仕え、/幾万もの者がその前に立っていた。/さばきが始まり、/いくつかの文書が開かれた。
②ヘブ12:22Heb 12:22しかし、あなたがたが近づいているのは、シオンの山、生ける神の都である天上のエルサレム、無数の御使いたちの喜びの集い、③黙5:11Rev 5:11また私は見た。そして御座と生き物と長老たちの周りに、多くの御使いたちの声を聞いた。その数は万の数万倍、千の数千倍であった。
4)次に、神の国の臣民として創造されたのが、人間である。

4.人間には、重要な役割が与えられた。   
1)神の代理人としての役割①地の管理事務を司る者のことである。神に対する説明責任がある。12)神が人間を創造したのは、地球という領地に代理人を置き、管理させるため。神が代理人を通して地上を管理する統治形態を、神政政治と呼ぶ。

3)重要な聖句 ①創2:7Gen 2:7 神である【主】は、その大地のちりで人を形造り、その鼻にいのちの息を吹き込まれた。それで人は生きるものとなった。*地上の体が与えられたのは、領地をより良く理解するためである。②創1:26~27Gen 1:26
神は仰せられた。「さあ、人を「われわれ」のかたちとして、われわれの似姿に造ろう。こうして彼らが、海の魚、空の鳥、家畜、地のすべてのもの、地の上を這うすべてのものを支配するようにしよ。」

Gen 1:27 神は人をご自身のかたちとして創造された。神のかたちとして人を創造し、男と女に彼らを創造された。*「神のかたち」に創造されたのは、神とのコミュニケーションのため。*「かたち」は、ヘブル語で「ツェレム」である。*その意味は、偶像、彫像、似姿(幻で見る形)、などである。*外面的な「かたち」は、以下のようなものである。

・言葉を使用する。・顔に表情がある。・恥を感じることができる(顔が赤くなる)。・自然界を支配する能力がある。

*内面的な「かたち」は、以下のようなものである。・知性、感情、意志・霊性

結論

1.人間の創造によって、神の国を設立するための神の御業は完了した。(1)人間は創造の冠として、最後に造られた。(2)人間の尊厳の根拠は、「神のかたち」に創造されているという点にある。  2.被造世界を見て、神は「非常に良かった」と評価された。(1)創1:31Gen 1:31 神はご自分が造ったすべてのものを見られた。見よ、それは非常に良かった。夕があり、朝があった。第六日。    (2)物質は決して悪ではない。

3.「非常に良かった」被造世界が、なぜ呪われた世界となったのか。
1)聖書の歴史哲学は、その理由を明らかにする。2)その理由は、神の国と悪魔の国の葛藤にある。

4.聖書は、将来に希望をもたらす書である。    1)被造世界は、「非常に良かった」という状態で始まった。
2)現在の被造世界は、呪われた状態にある。
3)しかし、被造世界は、再び元の状態に戻る。いや、それ以上の状態になる。
4)クリスチャンが楽観主義者である理由は、そこにある。

悪魔の国の始まりについて学ぶ。

パートⅠ.葛藤の舞台設定

2章 悪魔の国の始まりイントロダクション

    3.2章のアウトライン

    (1)サタン(悪魔)の野望

    (2)サタンによる天的領域の支配

    (3)サタンによる地上的領域の支配

Ⅰ.サタン(悪魔)の野望

1. 悪魔の国の王であるサタンとは何者なのか。    (1)黙20:2Rev 20:2 彼は、竜、すなわち、悪魔でありサタンである古い蛇を捕らえて、これを千年の間縛り、
2)悪魔に関して4種類の言葉が出て来る。①竜(ドラゴン)②蛇(オフィス)③悪魔(ディアボロス)。「誤った証拠をもって責めてくる者」という意味。④サタン(サタナス)。これも同じく「糾弾する者」という意味である。
*聖書は悪魔を竜や蛇にたとえたり、悪魔やサタンと呼んだりしている。

3)かつてサタンは、神によって創造された最高位の天使のひとりであった。①彼は、自らの力と美を過信し、自分も神のようになりたいと思った。②イザ14:12~14、エゼ28:11~17、1テモ3:6

4)堕落する前のサタン①「守護者ケルブ」と呼ばれていた。②「全きものの典型」であり、「知恵に満ち、美の極みであった」。③エデンに置かれ、9つの宝石が彼を覆っていた。*大祭司の胸当ての12の宝石と対比されるものである(出28:17~20)。④恐らく彼には、天の聖所において、祭司的役割を与えられていたのであろう。

2.サタンは、神に反抗し、自らが支配する王国を造ろうとした。
1)その結果、「守護者ケルブ」が、サタン(敵対者)と呼ばれるようになった。
2)しかし、サタンには神のように無から有を創造する力はなかった。①彼は、創造主ではなく、被造物である。②彼が採り得る唯一の方法は、神が創造した「神の国の臣民」を誘惑し、「悪魔の国の臣民」に作り替えることだけである。
3)サタンはこの作業を2段階で行った。
①天的領域を支配するために、天使たちを誘惑し。
②地上的領域を支配するために、人間を誘惑した。

Ⅱ.サタンによる天的領域の支配

 1.サタンは、天的領域を支配するために天使たちを誘惑した。
1)黙12:4Rev 12:4 その尾は天の星の三分の一を引き寄せて、それらを地に投げ落とした。また竜は、子を産もうとしている女の前に立ち、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた。①天の星とは、天使のことである。②サタンは、神について嘘を吹聴し、天使の3分の1を自分の側に付けた。③その結果、天使の3分の1がサタンに従い、堕落した。④これらの堕天使たちは、悪霊と呼ばれるようになった。

2.サタンは、悪霊どもを組織化し、戦略的に神の国とその臣民たちを攻撃し始めた。
1)今やサタンは、「悪霊どものかしら」(マタ12:24~26)と呼ばれている。
2)また、「空中の権威を持つ支配者」(エペ2:2)として暗躍している。Eph 2:1 さて、あなたがたは自分の背きと罪の中に死んでいた者であり、Eph 2:2 かつては、それらの罪の中にあってこの世の流れに従い、空中の権威を持つ支配者、すなわち、不従順の子らの中に今も働いている霊に従って歩んでいました。
3.信者は霊的戦いに勝利するために、「神のすべての武具を身に着け」る必要がある。Eph 6:11 悪魔の策略に対して堅く立つことができるように、神のすべての武具を身に着けなさい。
4.天使の3分の1は堕落したが、残りの3分の2は堕落しなかった。
1)彼らは、神に忠実な神の国の臣民たちである。①「聖なる御使いたち」(マコ8:38)②「選ばれた御使いたち」(1テモ5:21)
2)神による天的領域の支配は、これらの天使たちを臣下として今も続いている。

Ⅲ.サタンよる地上的領域の支配  
 1.次にサタンは、地上的領域を支配するために、人間を誘惑して堕落させた。
1)創3:1~5Gen 3:1 さて蛇は、神である【主】が造られた野の生き物のうちで、ほかのどれよりも賢かった。蛇は女に言った。「園の木のどれからも食べてはならないと、神は本当に言われたのです。Gen 3:2 女は蛇に言った。「私たちは園の木の実を食べてもよいのです。en 3:3 しかし、園の中央にある木の実については、『あなたがたは、それを食べてはならない。それに触れてもいけない。あなたがたが死ぬといけないからだ』と神は仰せられました。」Gen 3:4 すると、蛇は女に言った。「あなたがたは決して死にません。Gen 3:5 それを食べるそのとき、目が開かれて、あなたがたが神のようになって善悪を知る者となることを、神は知っているのです。」  2.サタンは蛇を通して、先ずエバを堕落させ、次にアダムも堕落させた。
1)サタンの誘惑の中心は、次の言葉に集約される。「あなたがたは決して死にません。それを食べるそのとき、目が開かれて、あなたがたが神のようになって善悪を知る者となることを、神は知っているのです」
2)サタンは、「神のようになろう」という野望を抱いたので堕落した。①イザ14:12〜14
3)人間もまた、同じ野望を抱いたために誘惑に乗り、堕落した。

3.神への反抗(堕落)は、いくつかの悲劇的な結果をもたらした。
1)人間は、罪を犯した瞬間に霊的に死んだ(創2:16~17)。①霊的死とは、神との関係の断絶のことである。②それまで人間の内側には、「神を慕い求める性質」があったが、その性質が変質し、人間は神に敵対するようになった。③パウロは、ロマ8:7でこう書いている。Rom 8:7 なぜなら、肉の思いは神に敵対するからです。それは神の律法に従いません。いや、従うことができないのです。④神に敵対する性質のことを、神学的には「全的堕落」という。
2)人間は、すぐに肉体の死を迎えたわけではないが、堕落した瞬間から、死に至る劣化のプロセスが始まった。①人間は病気だけでなく、事故、災害、暴力などによっても死ぬようになった。Rom 5:12 こういうわけで、ちょうど一人の人によって罪が世界に入り、罪によって死が入り、こうして、すべての人が罪を犯したので、死がすべての人に広がったのと同様に──
3)神の代理人(代官)として地上を管理する特権に、変化が生じた。①サタンが「この世の神」(2コリ4:4)となった。②人間は、神の御心に沿って地上を統治するのではなく、自然界を搾取するようになった。③さらに、人間の堕落は自然界にのろいをもたらした(創3:17~18)。④ロマ8:19~22Rom 8:19 被造物は切実な思いで、神の子どもたちが現れるのを待ち望んでいます。Rom 8:20 被造物が虚無に服したのは、自分の意志からではなく、服従させた方によるものなので、彼らには望みがあるのです。Rom 8:21 被造物自体も、滅びの束縛から解放され、神の子どもたちの栄光の自由にあずかります。Rom 8:22 私たちは知っています。被造物のすべては、今に至るまで、ともにうめき、ともに産みの苦しみをしています。
4)人間は、神の国の臣民から、悪魔の国の臣民になった。①アダムが神に反抗した結果、アダムの子孫たちはすべて(キリストを除いて)、霊的に死んだ状態で、神に敵対する性質を宿して誕生するようになった。②生まれながらの人間は、新しい生まれ変わりを経験しない限り、悪魔の支配に従って生きることしかできないのである。③新しい生まれ変わりとは、霊的新生体験のことである。④エペ2:2Eph 2:2 かつては、それらの罪の中にあってこの世の流れに従い、空中の権威を持つ支配者、すなわち、不従順の子らの中に今も働いている霊に従って歩んでいました。⑤サタンの嘘を信じ、霊的闇の中を歩いている人間は、やがてサタンと同じ裁きを受けることになる(黙20:10、15)。
5)サタンは、「この世を支配する者」となった(ヨハ12:31、14:30、16:11)。①それゆえサタンはキリストに、次のような提案をすることができた。Luk 4:5 すると悪魔はイエスを高いところに連れて行き、一瞬のうちに世界のすべての国々を見せて、Luk 4:6 こう言った。「このような、国々の権力と栄光をすべてあなたにあげよう。それは私に任されていて、だれでも私が望む人にあげるのだから。Luk 4:7 だから、もしあなたが私の前にひれ伏すなら、すべてがあなたのものとなる。」

結論 1.ここまでの段階では、サタンは、神の国を破壊し、悪魔の国を造るという当初からの目的をある程度達成したかに見える。
(1)彼は、天的領域と地上的領域に、自らが支配する国を造った。
(2)堕落した人間は、サタンの目的に従って利用される存在となった。

2.かつては愛と恵みに富んだ神の支配下にあった人間が、神が創造した素晴らしい被造世界を破壊することしか考えないサタンの支配下に入った。 (1)人間がサタンの嘘に惑わされて重大な失敗を犯したことは、明白である。   

3.神は、直ちにサタンを粉砕することもできたはずであるが、そうはしなかった。
(1)神は、堕落した人間を愛し、彼らを救おうとされた。
(2)神は、天地創造の前から人間を救う計画を立てておられた。
(3)今後私たちは、神の国と悪魔の国の葛藤がどのように進展していくのかを学ぶことになる。  

 4.聖書は、最後は神の国の勝利で終わることを約束している。

救い主の約束について学ぶ。

Ⅰ.被造世界の回復

1.神の国と悪魔の国の葛藤の本質
(1)これは、対等な二者による戦いではない(二元論ではない)。①被造物であるサタンが、神に挑戦しているのが、この葛藤の本質である。②神がこの戦いに勝てないとしたら、神はサタン以下の存在になってしまう。③最終的には、神はサタンを打ち破り、ご自身の計画をすべて成就される。④その時、神の栄光が完全に現れる。⑤そういう意味で、聖書が書かれた目的は、神の栄光であると言える。    

(2)この戦いは、天と地において行われる。①エペ6:10~12Eph 6:10 終わりに言います。主にあって、その大能の力によって強められなさい。Eph 6:11 悪魔の策略に対して堅く立つことができるように、神のすべての武具を身に着けなさい。Eph 6:12 私たちの格闘は血肉に対するものではなく、支配、力、この暗闇の世界の支配者たち、また天上にいるもろもろの悪霊に対するものです。②黙12:7~8Rev 12:7 さて、天に戦いが起こって、ミカエルとその御使いたちは竜と戦った。竜とその使いたちも戦ったが、Rev 12:8 勝つことができず、天にはもはや彼らのいる場所がなくなった。

2.聖書が啓示する戦いは、主に地上における戦いである。
(1)聖書は人間に対する啓示の書である。①とは言え、天における戦いが存在しないわけではない。    (2)地上における戦いのゴールは、被造世界の回復である。①アダムの堕落によって、被造世界はのろわれた。*悪魔が、神が創造した世界を破壊したとも言える。②被造世界の回復とは、エデンの園の状態の回復である。③被造世界が回復されたとき、神の栄光が現れる。
(3)被造世界の回復について、旧約聖書の預言者たちは数々の預言を語っている。
①旧約聖書の預言のピークは、御国の成就である。②その先の出来事(新天新地)に関する預言はない。③御国は、地上において成就する必要がある。      ④そうでなければ、神は被造世界を修復できなかったことになる。⑤使3:21Act 3:21 このイエスは、神が昔からその聖なる預言者たちの口を通して語られた、万物が改まる時まで、天にとどまっていなければなりません。*「万物が改まる時」とは、御国が成就する時である。*御国とは、「メシア的王国」(千年王国)のことである。*主イエスの再臨によって、地上に御国が成就する。

Ⅱ.それ以外のものの回復

1.御国(千年王国)が成就する前に、いくつかのものが回復される。
(1)霊的死からの復活①人間は、霊的に死んでしまった(神との断絶)。②その人間に新しい命を与えるのは、聖霊の御業である。③これは、「新生」「霊的生まれ変わり」などと呼ばれるものである。④さらに、人間に、神を愛し、神を慕い求める性質を与える必要がある。⑤これは、聖霊の内住によって可能になる。⑥聖霊に満たされた人は、神の御心を喜んで行うようになる。⑦その人は、悪魔の国の市民から、神の国の市民に移された人である。⑧ロマ8:13Rom 8:13 もし肉に従って生きるなら、あなたがたは死ぬことになります。しかし、もし御霊によってからだの行いを殺すなら、あなたがたは生きます。
(2)肉体的死からの復活①人間は肉体的にも死ぬ運命になった。②神が行う命の回復は、霊的命だけでなく、肉体的命も含む。*これは、肉体的死からの復活である。③人間は、復活の体をもって御国で生きるようになる。④イエス・キリストの復活は、聖徒の復活の初穗であり、保証である。    (3)地と労働の回復①アダムの堕落によって、地がのろわれ、労働がのろわれた。②サタンは、「地を統治する権威」をアダムから略奪した。③この状態は、神が最初に意図したものとは異なる。④神は、地と人間の関係を元の状態に回復される。⑤人間は、神が意図した通りに地を管理するようになる。*このことが成就するのは、御国(千年王国)においてである。
(4)サタンの追放①神はサタンを裁き、地上から追放される。②この追放は、御国が成就する前に、歴史の流れの中で行われる必要がある。③サタンは歴史の中で神に反抗したので、その決着は歴史の中でつけられる。

Ⅲ.原福音

1.神は、アダムとエバに救い主の約束を与えた。    (1)その約束を与えたタイミングは、サタンが地の支配権を略奪した直後である。①創3:14~15Gen 3:14神である【主】は蛇に言われた。/「おまえは、このようなことをしたので、/どんな家畜よりも、/どんな野の生き物よりものろわれる。/おまえは腹這いで動き回り、/一生、ちりを食べることになる。Gen 3:15 わたしは敵意を、おまえと女の間に、/おまえの子孫と女の子孫の間に置く。/彼はおまえの頭を打ち、/おまえは彼のかかとを打つ。
(2)エデン契約からアダム契約への移行①アダムが堕落したとき、神との最初の契約(エデン契約)が破棄された。②そこで神は、アダムと新しい別の契約を結ばれた(アダム契約)。③アダム契約は、4つの部分に分かれている(語りかける相手が4種類いる)。④ここでは、第1と第2の部分を取り上げる。  

2.第1の部分:蛇に対する宣言(創3:14)    (1)蛇にのろいが下った。①蛇がサタンに悪用されたからである。②アダムの罪によって、動物界全般がのろわれた。③その中で、蛇は、あらゆる家畜、あらゆる野の獣よりものろわれた。④腹這いで歩くのは、のろいが下った証拠である。*「ちりを食べる」とは、のろわれた状態や敗北した状態を表している。*詩篇72:9、イザヤ49:23参照

3.第2の部分:サタンに対する宣言(創3:15)(1)サタンに対して裁きが宣言された。①その内容は、「原福音」(福音の原型)と呼ばれる極めて重要なものである。②神は、「女の子孫」を通して贖いの計画を実行される
(2)創3:15①神は、サタンと女の間に敵意を置かれる。②女に対して敵意を置く理由は、人類の救い主が女から誕生するからである。③サタンはそれを妨害しようとして、人間の女たちを汚そうとする。        *創6:1〜4の記事(堕天使と人間の娘の雑婚)      ④「おまえの子孫」とは、反キリストのことである。⑤系図は普通男性のラインを辿るが、メシアは「女の子孫」と呼ばれている。*「女の子孫」という言葉は、最初のメシア預言である。⑥メシアがそう呼ばれる理由は、
イザ7:14になって初めて明かされる。Isa 7:14それゆえ、主は自ら、あなたがたに一つのしるしを与えられる。見よ、処女が身ごもっている。そして男の子を産み、その名をインマヌエルと呼ぶ。       *イザヤは、メシアが処女降誕によって登場することを預言した。⑦「サタンの子孫」である反キリストも超自然的な誕生を経験することになる。*その詳細は、ダニ9:26〜27になって明らかにされる。Dan 9:26
その六十二週の後、/油注がれた者は断たれ、彼には何も残らない。/次に来る君主の民が、都と聖所を破壊する。/その終わりには洪水が伴い、/戦いの終わりまで荒廃が定められている。Dan 9:27
彼は一週の間、多くの者と堅い契約を結び、/半週の間、いけにえとささげ物をやめさせる。/忌まわしいものの翼の上に、荒らす者が現れる。そしてついには、定められた破滅が、荒らす者の上に降りかかる。」*「次に来る君主」とは、反キリストのことである。*「君主の民」とは、神殿を破壊する民、つまりローマ人のことである。*反キリストは、ある時点で、ローマ系の婦人から誕生する。      ⑧メシアは、サタンの頭を踏み砕く。*これは、イエスの復活によって部分的に成就した(ヘブ2:14〜18)。⑨サタンの完全な敗北は、将来起こる出来事である。*ロマ16:20Rom 16:20平和の神は、速やかに、あなたがたの足の下でサタンを踏み砕いてくださいます。/どうか、私たちの主イエスの恵みが、あなたがたとともにありますように。        *黙20:10Rev 20:10 彼らを惑わした悪魔は火と硫黄の池に投げ込まれた。そこには獣も偽預言者もいる。彼らは昼も夜も、世々限りなく苦しみを受ける。⑩サタンは、イエスのかかとを打つ。*かかとにかみつかれるのは痛いが、致命的なことではない。*イエスの十字架の死は、サタンがかかとにかみついた出来事である。

結論

1.今後、女の子孫の登場を軸に、神の国と悪魔の国の葛藤を追いかけることになる。
2.この葛藤の最終ゴールは、御国である。
3.御国というテーマは、神の国と悪魔の国の葛藤の冒頭から意識すべきものである。
4.御国の理解なくして、聖書の歴史哲学を理解することは不可能である。
5.無千年王国説は、聖書の歴史哲学を理解するための助けとはならない。